不動産鑑定士試験の備忘録

結果として独学・兼業で臨むこととなった不動産鑑定士試験の備忘録

3.開示された解答/(4)鑑定理論

令和2年不動産鑑定士試験(鑑定理論)において以下のように解答し、135点を得た。


1.雑感
・未暗記箇所(6章留意とか)から出題されなくて安堵したのが第一印象。
・答案構成は「上位概念→定義→問題文の直接的な解答」パターンのみで対処(それしか知らない)。
・当日の感触としては120~140点前後。
・暗記したものを上記パターンに基づき貼り付ければ7割程度の点はつけてくれるが、
+αを狙うには次元の違う対策が必要になると感じた。

 

2.解答

問題1
(1)
鑑定評価を行うに当たっては、基本的事項として対象不動産、価格時点、価格・賃料の種類を確定する必要がある。そのなかでも、まず、対象不動産を確定する必要がある。対象不動産の確定に当たっては、鑑定評価の対象となる土地・建物等の物的事項を確定することのみならず鑑定評価の対象となる所有権等の権利の態様に関する事項を確定させる必要があり、これは、鑑定評価の対象となる不動産を他の不動産と明確に区別し、特定する作業である。対象不動産の確定は不動産鑑定士が、依頼目的及び鑑定評価の条件に照応した対象不動産と当該不動産の現実の利用状況を照合し、確認するという実践行為を経て最終的に確定される。ここに鑑定評価の条件設定の必要性が認められる。
特に不動産はその範囲が可変的であり、外見上不分明な債権をも鑑定評価を対象となることがあり、複数の権利が同一不動産の上に併立することもあるため、対象不動産を確定させるために必要な条件(対象確定条件)が必要となる。また、現実の用途、権利の態様、対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因及び個別的要因を所与とするのみでは多様な不動産取引の実態に即応できず、社会的な需要に応ずることができないため、現実の対象不動産の利用状況と異なる対象確定条件、対象不動産の地域要因及び個別的要因に係る想定上の条件、調査範囲等条件(不動産鑑定士の通常の調査の範囲では事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合に、当該要因の調査の範囲に係る条件)を設定することがある。条件設定は不動産の鑑定評価の妥当する範囲を示すとともに、不動産鑑定士の責任の範囲を示すためにも必要となるものである。

 

(2)
条件設定に当たっては、依頼者と、鑑定評価依頼契約上の合意が必要となる。
妥当ではない条件のときは依頼者に説明の上、妥当な条件に改定すべきであり、これが受け入れられず公正妥当な鑑定評価が不可能と判断される場合は依頼を謝絶すべきである。また、依頼内容と鑑定評価の条件は関連しており、不動産鑑定士は不動産鑑定業者の受付を通じて間接的に依頼内容を知ることとなるが、同一不動産であっても条件設定の如何によっては異なる鑑定評価額となることもあるので、依頼者に直接依頼内容を確認すべきである。

 

(3)
①対象確定条件の設定に当たっては、対象不動産について価格時点と異なる権利の態様を前提として鑑定評価を行うことがある。対象確定条件の設定に当たっては対象不動産の諸事項を調査・確認の上、当該条件設定が鑑定評価書の利用者(依頼者、提出的等のほか当該鑑定評価を踏まえ販売される不動産の購入者等含め)の利益を害するおそれがないかどうかの観点から妥当性を確定しなければならない。すなわち、鑑定評価書の利用者が、現実の利用状況との相違(本件のおいては、付着している使用収益を制約する権利をないものとしていること。)が、対象不動産の価格形成への影響の程度を自ら判断できるかどうかという観点から妥当性を行う必要がある。

②鑑定評価報告書には鑑定評価の条件を記載する必要があり、現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定した場合はそれが妥当であると判断した理由及び必要と認められる場合には、現実の利用状況を所与として(本件においては使用収益を制約する権利が付着しているものとした)鑑定評価額を参考事項として記載する。

 

問題2
(1)原価法は、鑑定評価によって価格を求める手法にひとつであり、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価に減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という)。減価修正の目的は、減価の要因に基づいて発生した減価額を、対象不動産の再調達原価から控除することにより価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることにある。減価の要因は物理的要因、機能的要因、経済的要因に分けられ、これらは独立しているものではなく相互に関連し影響を与え合いながら作用している。減価額を求める方法には①耐用年数に基づく方法及び②観察減価法の二つの方法があり、これらを併用するものとする。

①耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価学を把握する方法である。経済的残存態様年数とは、価格時点における対象不動産の物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場性の程度に応じて、対象不動産の効用が十分に持続すると考えられる期間のことをいい、この方法の適用にあたり特に重視すべきものである。なお、減価額の把握にあたって、定額法、定率法等があるがいずれを用いるかは用途・利用状況に即して決定すべきである。耐用年数に基づく方法は、外部観察では見落としやすい要因(不可視部分の鉄骨の腐触等)を減価額に反映させることが出来るが、不動産の減価は規則的に発生するものではなく個別性を反映しにくいという短所もある。


②観察減価法は価格時点における対象不動産について維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等、各減価の要因の実態を調査し、減価額を直接求める方法である。この場合、対象不動産に係る個別分析に基づき把握した対象不動産と代替・競争等の関係にある不動産と比べた優劣、競争力の程度等を適切に反映すべきである。観察減価法は個別的な減価を反映することが出来るが、外部観察では見落としやすい要因を反映させにくいという短所がある。

 

(2)
①増築時、耐用年数に基づく方法適用上の留意点

増築による設備の更新により、機能的要因による減価額への影響に留意する必要がある。また、増築による市場性の回復、付近の不動産との適合の状態が改善されることにより、経済的要因による減価額への影響に留意する必要がある。これらは、経済的残存耐用年数を伸長させ、もって耐用年数の伸長に資することがあるからである。また、この方法の適用に当たって、分別可能な二つ以上の組成部分により構成されている場合、それぞれ経過年数や経済的残存態様年数をいかに判断して用いるか、その耐用年数満了時に残材価格をいかにみるかは用途や利用状況に即して決せられるべきであるが、増築時はまさにこれらの点に留意する必要がある。すなわち、増築部分と既存部分とにおいて経過年数が異なるのは必然であり、増築部分の構造、材質にもよるが、その経済的残存耐用年数も異なる可能性が高いからである。

 

②増築時、観察減価法適用上の留意点
増築による個別的要因の変化により、対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産と比較した場合の市場性の競争力の程度等に影響を与えることがあり、これに留意すべきである。また、増築により、不可視部分が増える場合は、減価の要因の実態を調査する際に見落とさないように留意する必要がある。

 

問題3
(1)収益還元法は、不動産の価格を求める鑑定評価の手法のひとつであり、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格(鑑定評価の手法の適用によって求められた価格のこと)を求める手法である。(この手法により求められた試算価格を収益価格という。)貸家及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者が同一人であるが、建物が賃貸借されている場合における当該建物及びその敷地をいう。貸家及びその敷地の鑑定評価額は実際実質賃料(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分があるときは、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする)に基づく純収益等から求めることにより得た収益価格を標準とし、原価法により求めた試算価格(積算価格)及び取引事例比較法により求めた試算価格(比準価格)を比較考量することにより決定するものとする。また、収益還元法には、対象不動産の一期間の純収益を還元利回りで還元して収益価格を求める方法(直接還元法)と、連続する複数の期間に発生する純収益と復帰価格(保有期間又は分析期間満了時の対象不動産の価格)について、各発生時期に応じて現在価値に割り引きそれぞれを合計する方法(DCF法)がある。

 

(2)①土地残余法とは収益還元法のひとつであり、対象不動産が更地である場合に、当該更地に最有効使用の賃貸用建物の建築を想定し、当該想定建物の価格が収益還元法以外の方法によって求めることができるとき、当該想定建物及びその敷地が生み出す純収益から当該想定建物の生み出す純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元することにより敷地の収益価格を求める手法である。また、この手法は対象不動産が敷地と建物等の結合によって構成されている場合、当該建物等の価格が収益還元法以外の方法によって求めることができるとき、適用することができる。ただし、建物等が古い場合には、複合不動産から生み出す純収益から、敷地に帰属する部分を適切に配分することができないので、建物等は新築か築後間もないものであることに留意する必要がある。また、賃貸用不動産のライフサイクルの観点(更地に賃貸用建物の建築を想定し、建物の耐用年数満了後解体し、次の建物を建築するというサイクル)を踏まえ複合不動産が生み出す純収益を査定すべきことに留意する必要がある。土地残余法は、複合不動産が生み出す純収益を、建物及びその敷地に適切に配分することができる時に有効である。

 

②両者では還元利回りの適用段階に違いがある。すなわち、直接還元法は、純収益は、収益価格を求めるために還元利回りで還元される対象として把握される。この純収益は、建物と敷地の結合を前提とする。これに対し、土地残余法における純収益は、還元対象となる純収益は、敷地部分に帰属する純収益であるし、仮に題意の「純収益」が複合不動産における純収益を指すものだったとしても、建物と敷地それぞれの配分段階が異なれば、純収益の変動予測及び予測に伴う不確実性の反映の仕方が異なる。したがって、還元利回りは、収益価格を求める方法とも密接な関連があるためその把握の仕方において整合がとれたものでなければならない。

 

問題4
(1)証券化対象不動産とは、以下の不動産取引の目的となる不動産又は不動産取引の目的となる見込みの不動産という。
1.資産流動化法に規定する資産流動化に係る不動産取引
2.投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資法人が行う不動産取引及び同法に規定する投資信託に係る不動産取引
3.不動産特定共同事業法に規定する不動産特定共同事業に係る不動産取引
4.金融商品取引法に規定する有価証券及び有価証券とみなされる権利(信託受益権)の債務の履行を主たる目的として収益・利益を得ることを目的とした不動産取引証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価は不動産鑑定評価基準各論第3章の定めるところに従って行わなければならない。証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては不動産鑑定士は、依頼者のみならず広範な投資家等に重大な影響を与えることを考慮するとともに、不動産の鑑定評価制度に対する重要な責任を有していることを考慮するとともに、不動産の鑑定評価制度に対する重要な責任を有していることを認識し、不動産の証券化が円滑かつ適切に行われるよう、証券化対象不動産の鑑定評価の手順に最大限配慮すべきである。また、鑑定評価書については、依頼者等がその内容を容易に把握、比較することができるよう、記載方法を工夫し、その鑑定評価において採用した資料を明示する等、説明責任が十分果たされるものでなければならない。また、証券化対象不動産の鑑定評価に当たって適用するDCF法において使用する純収益を求めるために必要となる費用収益項目について、依頼者にその項目、定義を説明の上、資料の協力を求めるべきである。このように、証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、依頼者にその手順や資料等について説明し、理解を深め、協力を得る必要がある。そして、DCF法の適用において、最終還元利回りや割引率、収益費用の変動予測等査定した個々の項目を経済情勢の変動の可能性も含めて論理的、実証的に説明することが必要である。またDCF法による収益価格(直接還元法による検証含む)と取引事例比較法によって求めた試算価格及び原価法によって求めた試算価格との関連についても鑑定評価書を通じて、説明する。


(2)
処理計画の策定に当たっては、あらかじめ、以下の事項を確認し、処理計画に反映させるとともに、確認事項に変更があった場合は、処理計画も変更する。
1.鑑定評価の依頼目的、条件、鑑定評価が必要となった背景
2.鑑定評価が不動産鑑定評価基準各論第3章第1節の定義のいずれに該当するものであるか。
3.エンジニアリング・レポート(建築物、設備等及び環境について専門的知識を存する者が作成した調査報告書)及びDCF法の適用に必要な資料その他必要な資料の入手時期・項目
4.内覧の実施も含めた実地調査の範囲
5.その他必要な事項

 

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