不動産鑑定士試験の備忘録

結果として独学・兼業で臨むこととなった不動産鑑定士試験の備忘録

3.開示された解答/(1)民法

令和2年不動産鑑定士試験(民法)において以下のように解答し、59点を得た。


1.雑感
・気が動転して条文引用の際に「第」をつけてしまった。間違いではないが時間のロス。模試を受けていない弊害。

・ナンバリングをする余裕もなし。
・問題1(1)代理人が未成年だから取消可とする大きなミス。表見代理について論じはしたものの全体の理解を誤っているから、数点しか乗っていないのではないか。
・問題2(2)債務不履行による合意解除は転借人に対抗できるかという論点落とし。予備校の分析によると合否に影響ない論点とのことだったが……。
・当日の感触としては50点程度。実際の得点は多少上振れしている。論証の暗記があやしくても正解筋で書いた箇所は7割程度の点をつけてくれている印象。

 

2.解答
問題1
(1)について
AがCに対して甲不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を請求できるためには、甲不動産の所有権がAに帰属している必要があり、Aは、AC間の売買契約が無効であると主張することが考えられる。
たしかに、BがAから代理権を与えているのは甲不動産の修繕等のために必要な範囲であるから甲不動産の処分について、未成年であるB(第4条)は、法定代理人Aの同意を得る必要(第5条第1項)があり、それに反する法律行為は取り消すことができ(第5条第2項)、取り消した法律行為は遡及的に無効となる(第121条)。
もっとも、Cは表見代理(第110条)が成立し、当該契約は取り消すことができない(第5条第3項)と主張することが考えられる。
表見代理成立のためには基本代理権の存在が必要となるが、その代理権は私法上の法律行為についての代理である必要がある。
本件では、BはAより、甲不動産の修繕等についての代理権を付与されており要件を充足する。

また、表見代理成立のためには、「正当な理由」が必要であるところ、これは代理権が存していることの正当な信頼すなわち代理権の存否について善意・無過失であることと解する。
本件では、Cは未成年であるBに対し、甲不動産処分に関する代理権の有無につき
確認をしておらず過失が認められる。
ゆえに要件を充足しない。
したがって、Cは表見代理の成立を主張できない。
以上より、Aは、甲不動産の売買契約を取り消し、かつその所有権移転登記の抹消登記手続をCに請求することができる。

(2)について
AがEに対して乙の引き渡しを請求できるためには、乙の所有権をEに主張できる
必要がある。
乙は、BをAの代理人として、AD間で売買されているものの、DはBに対して
欺罔行為をはたらき、Bは地価が下落すると誤信して適正な地下よりも廉価で売買
しているため、Aは当該売買契約を取り消すことができる(第96条第1項、第101条第1項)。
もっとも、乙は善意のEに転売されており、当該売買契約をAはEに対抗することができるか、Eが「第三者」(第96条第3項)にあたるか否かが問題となる。
「第三者」は、取り消された法律行為に基づき新たに独立した法律関係を有するに至った前、すなわち取消前の第三者と解する。なぜなら、第96条第3項の趣旨は取消の遡及効(第121条)から第三者を保護する規定であるからである。
また、主観的保護要件については、無過失であることは不要と解する。なぜなら、だまされた者にも落ち度があるし、条文上も「善意」のみが要求されているからである。
したがって、Aは、AD間の売買契約の取り消しをEに対抗できず、所有権の主張もできない。
以上より、Aは、Eに対して乙の引き渡しを請求できない。

 

問題2
(1)について
AB間において、賃貸借契約が終了している以上、その目的物である甲建物をBは所有者であるAに明け渡す必要があるところ、Bは建物明渡しと敷金返還請求権が同時履行の関係(第533条)にあるとして、敷金返還なき限り甲建物を明け渡さないと主張しているものと考えられる。
賃貸借契約の目的物である建物の明け渡しと敷金返還請求権が同時履行の関係にたつか、敷金返還請求権の発生時期が問題となる。
敷金は、賃貸借契約の目的物について、建物の明け渡しまでについて生じたすべての賃借人に対する債権を担保するものであるから、敷金返還請求権の発生時期は建物明け渡し後であると解する。
したがって、建物明渡しと敷金返還請求権は同時履行の関係になく、Bは敷金返還なき限り甲建物を明け渡さないとの主張をすることができない。
以上より、AはBに対して、所有権に基づき敷金を返還することなく甲建物の明渡しをBに請求することができる。

(2)について
Aが所有権に基づきCに対して甲建物の明渡しを請求できるためには、AB間の甲建物の賃貸借契約の合意解除をCに対抗できる必要があるも否定的に解する。なぜなら合意解除は一種の権利の放棄であると考えられるところ自己のある権利について他人がその権利の上に正当な権利を有している場合、それを侵害することは信義則(第1条第2項)に反し、許されないからである。
そして、法律関係の簡明化のため、賃貸人Bの地位にCが入り、AC間において
賃貸借関係が発生する。
したがって、AはCに対して甲建物の明渡しを請求できない。

 

保管目録へ戻る